五感を、取り戻す日々
「どんな写真が撮れるかな」と、空ばかりに目を向けていた。
しかし、ふと足元を見ると、そこには可愛らしいドクダミの花。
花びらの白がまぶしく、土の茶色と深い緑に紛れ、なお輝く花。
カメラの技術が乏しい私は、フォーカスすることなく、そのままその場にしゃがみ込み、一枚撮らせてもらった。
角度や色合い、専門家ではないけれど、心が「よし」と納得できる写真が撮れたので立ち上がる。
すると、ほんの一瞬だけ、ふわりと「土の香り」が舞ったのだ。
おや、と進もうとしていた足が止まった。
この香りをかいだのは、もうずいぶん前。
いや、まず、「自然の香り」を嗅いだのが、もうずいぶん、前だったなぁ。
花の瑞々しい香りや、湖などの水の香り――。
映像や香水では得られない、空気中に充満して、「存在そのもの」がそこにあるとわかるもの。
疲れてくると、まず「香り」を忘れてしまうんだ。
食べ物も「胃に入ればいい」という気持ちだけで、あまり味わって食べなくなっていた。
触覚は、キーボードを打ち間違えないようにと気を配るだけにとどまった。
香りが無くなって、感動が失せて、ロボットみたいに機械的に動いた方が楽なんじゃないかと思いながら、毎朝時間に追われて道を走る。
でも、このごろは少し余裕が出てきて、そういうことを「問題視」する力が戻ってきたようだ。
ブログを始めたから、写真を撮ることを習慣にしようという気力が出てきた。
そうなると、香りを大切に感じなければ、きっと写真の中に「何か」が宿ることはないんだろう(という素人考えですが)
そんな風に、周りに目を向けながら、心のアンテナを研ぎ澄ませて、五感を少しずつ取り戻していく日々を始めている。
千羽はる