月草茶ばなし

何でもないことを、お茶の時間に楽しめるように、作家未満の物書きが綴ります。

世界がきれいに見えたから

「エッセイが苦手である」

一番印象に残っているエッセイの、一行目に書かれていた言葉を思い出す。

そのエッセイは素晴らしかった。

日々の中で泡のように浮き上がる、何でもない、けれど、とても色鮮やかな出来事や。 旅先で出会った光景、その空気、心をかすめていった風のような事柄に、文字という彩りを添える。

今でも本棚で一番目につきやすい場所に置き、ふと気づいた時には手に取っている。

小説以外(新潮文庫)

誰かの日々をこっそりと覗き込む気分で、そろりとページをめくってゆく、私の手。

教科書の中で見た、噂の美女を塀の間から恐る恐る覗き込む、平安時代の貴族を思い出す。

エッセイにしろ、ブログにしろ。 誰かの心を少し覗くのならば、私もまた少しだけ見せてみようといういたずら心が湧いた。

だから、読みに来てくださったあなた。

初めまして。

今日一日は、なんでもない日だった。 ただ、仕事が終わって何の気なしに見上げた空。 吸い込まれそうになって、思わず写真を撮っていた。 f:id:planetes228:20210607223437j:plain

夏の空は、手を伸ばしても届かない青色をしていると思う。 ただ、今日の空は少しだけ、見上げた人に優しかった。

「あぁ、今日を書こう」

頭の中に、視界に入りながら、黙殺していた風景が浮かぶ。 通勤という日常の中に埋もれさせてしまった、胸を突く画。

たとえば、あの家の前に咲く紫陽花。 f:id:planetes228:20210607223515j:plain

たとえば、瑞々しく咲き誇るユリ。 f:id:planetes228:20210607223545j:plain

いつもと何も変わらないはずの世界が、なんだかとても、きれいに映る。

かつて、貴族の女性は顔を見せず、その美しい裾のみを見せたという。

煌びやかな男性たちに夢を見せた、平安の令嬢。

もちろん、彼女たちを見習おうなんて思わない。 ただ、その「夢」を見せる姿勢が、とてもきれいに見えたから。

私がこれから書くのは、平凡な日常であり、とんでもない「きれいごと」。 もしかしたら、時には誰かのためになる何かを書くことができるかもしれない。 もちろん、誰かから呆れられる言葉をつづるのかもしれない。

願わくば、朝だけ咲き誇る小さく青い月草のように、視界に入って、忘れて、そしていつかは思い出す。 そんな言葉を、ここに落としていけたらと思う。

千羽はる